股関節の神経ブロックと高周波熱凝固法について

　今回は、「股関節の神経ブロックと高周波熱凝固法」について説明します。

　前号（1月29日号）の説明のように、変形性股（こ）関節症では大腿神経・閉鎖神経・坐骨神経などの股関節枝（順に、〔1〕、〔2〕、〔3〕）が刺激されて痛みを生じます（図1）。幸いにもそれらの股関節枝（以下、神経と略します）は、どこを通るか決まっているため、レントゲンで見ながら神経の近くに注射針を挿入することは容易です（図2）。神経ブロックはその注射針（以下、針と略します）から局所麻酔薬を注入しますが、高周波熱凝固法では針に特殊な電流を流します。
　
　この神経ブロックで使用する麻酔薬は長くても数時間しか効きませんが、麻酔中に神経の興奮が鎮まるために数日から数週間もの鎮痛効果が望めます。このように、ブロックの効果は股関節の変形の程度や治療後の安静度に大きく影響されます。
　
　高周波熱凝固法（以下、熱凝固法と略します）では、針先だけに電気が流れる特殊な針を使用します。その針に低周波を流すと針先に電気刺激だけが発生しますが、高周波で針先の温度が急激に上昇します。
　
　ところで、神経の主成分はたんぱく質ですから、50℃を超える熱にさらされると化学変化を起こします。特に80℃を超えると、生卵がゆで卵になるように、たんぱく質には凝固という反応が起こって神経の機能は停止します。つまり、熱凝固法とは、80℃以上の熱で痛みを伝える神経を凝固して痛みを取り除く治療法です。
　
　実際の熱凝固法は、目的の神経に針を当てることから始まります。そのために、レントゲンで確認しながら針先に低周波を流して神経を探します。電気刺激でいつもの痛みが再現されたら、針が正確に神経に当たっていることを示します。そこで、局所麻酔薬を注入して治療中の痛みをなくします。
　
　これで高周波を流して熱凝固を行いますが、目的の神経以外に影響が及ばないように、針先の温度は80℃少々に調節します。そして、90～120秒間の高周波で治療は終了です。
　
　ここで、凝固された神経は再生されるまでに１～２年間を要すると考えられていますが、股関節の熱凝固法では、期待を下回って半年前後とされます。これは、股関節には普段から予想を超える負担が掛かっているためと考えられます。いずれにしても、熱凝固法は正常な神経を凝固して痛みを緩和する治療であるため適応は厳選されます。